大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ラ)543号 決定 1963年1月16日

抗告人 大倉実(仮名)

相手方 大倉多美(仮名) 外三名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人の抗告理由は別紙記載のとおりである。

一、抗告理由第一点について、

1  労働科学研究所編「総合消費単位表」に記載された消費単位が設定、算出されるにいたつた調査過程は、原審判調査記録に記載されているとおりであつて、その調査対象世帯がやや少数であり、調査期間が短時間であつて、調査年度がかなり古いきらいはないではないが、右総合消費単位表は飲食費の消費単位のみでなく、これと並んで、飲食費以外の(社会的文化的)消費単位を設定算定し、これを総合した家族別の最低生活費として、算定されているから、家族構成の差異による生活水準の実質的差異を明確ならしめる点で、他の消費単位に比べより実質的、合理的な配慮がうかがわれ、調査以後の一般生活様式構造の変化はあるにしろ、現在においても、前記総合消費単位としての意味が失われたものとは考えられない。

2  相手方大倉多美は、現在抗告人と別居生活をしているとはいえ、離婚するにいたつたわけではないから、抗告人は相手方大倉多美の夫として、またその他の相方方(未成年者)の父親として、自己の能力に応じ、自己と同一の生活程度において相手方を扶養する義務があるから、抗告人の収入資産等を基準として扶養料を定めるのは当然である。

3  本件記録に添付されている相手方大倉多美提出の「生活費」と題する書面には「住居費」の費目又はこれに相当する費目が計上されている形跡は見当らない。そして右記載を考慮に入れ原決定をなしたことは一件記録に徴し明らかであるから、この点の抗告理由も採用し難い。

二、抗告理由第二点について、

相手方大倉多美が現在職がなく、自己において収入をえていないことは本件記録に照して明らかであり、近い将来就業が可能であり、これによつて自己の生活費を支弁できるであろうと考えられないことは、記録中の家庭裁判所調査官関村英明の調査報告書により明らかである。

三、むすび

以上のとおり、本件抗告はいずれもその理由がなく、他に記録を精査しても違法とするところは見当らないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 牧野威夫 裁判官 満田文彦 裁判官 渡辺卓哉)

別紙

抗告の理由

一、原審判は労働科学研究所編「綜合消費単位表」により、扶養料を計算しているが、その計算方法は不当であると思料する。扶養料は、抗告人の収入を基準とすべきでなく、相手方等の実際に必要な生活費を基準とすべきである。

従つて、相手方等は、抗告人の所有する家屋に居住しており、家賃等の住居費は一切かからないのに、原審判は、この事情を考慮に入れていないから不当である。

二、相手方大倉多美は勤労能力ある女性であるから自己の生活費は、勤労によつて、これを賄うべく、扶養料の額の算定に当つても、これを考慮に入れるべきなのに原審判はこれを考慮していないから不当である。

三、以上の理由によつて本件申立に及ぶ次第である。

参照

原審判

横浜家裁 昭三六(家)自一五二一至一五二四号 昭三七・八・二五審判 認容

申立人 大倉多美(仮名) 外三名

相手方 大倉実(仮名)

主文

一、相手方は、直ちに

(一) 申立人多美に対し金九、六〇〇円

(二) 同邦男に対し金七、二〇〇円

(三) 同恵子に対し金六、六〇〇円

(四) 同紀子に対し金六、六〇〇円

を支払うこと。

二、相手方は申立人多美に対し、昭和三七年八月から、相手方と申立人多美とが生計を一にして再び同居するか、または両名が離婚する月まで、毎月末日限り金九、六〇〇円ずつを支払うこと。

三、相手方は申立人邦男、同恵子、同紀子に対し、昭和三七年八月から相手方と右各申立人とが生計を一にして再び同居するか、または右各申立人が各成年に達する月まで毎月末日限り、

(一) 申立人邦男に対し金七、二〇〇円

(二) 同恵子に対し金六、六〇〇円

(三) 同紀子に対し金六、六〇〇円

を各支払うこと。

四、本件手続費用は各自の負担とする。

理由

申立人等四名代理人は「相手方は申立人等四名に対し、昭和三五年一一月から昭和三六年四月迄の扶養料として金一八〇、〇〇〇円および同年五月以降毎月三〇、〇〇〇円ずつを各支払え」との審判を求め、その事件の実情として、「申立人多美と相手方とは昭和二五年六月九日正式に婚姻し、その間に長男邦男(昭和二七年八月八日生)長女恵子(昭和二九年一月三一日生)二女紀子(昭和三〇年一一月三日生)をもうけ円満に暮していたが、相手方は昭和三五年春頃から家庭を顧みないようになり、次いで同年八月頃から相手方は家庭を棄てて家出し、他の女友達と同棲するに至つた。そして相方方は家出以来申立人等四名の生活費としては同年九月に合計一六、〇〇〇円、同年一〇月に合計一三、〇〇〇円を送金して来たのみで、その後は現在に至るまで、全く申立人等四名の生活を顧みない状況である。

申立人等は長男邦男、長女恵子は既に小学校に在学しているため同児等の学費を含め、毎月最低三〇、〇〇〇円の生活費を要するに対し、相手方はアメリカ銀行横浜支店に勤務し毎月手取り約六〇、〇〇〇円の俸給を得ている次第であるから、申立の趣旨に相当する審判を求める。」と述べた。

よつて当裁判所は本件を当庁家事調停に付し、右に基ずく調停事件たる当庁昭和三六年(家イ)第自四三六至四三七号扶養調停事件につき昭和三六年六月六日午後一時の第一回期日以来同年八月二六日午前十時の第三回期日まで三回に亘り期日を指定し当事者双方を呼出したところ、相手方は申立人多美が離婚に応ずるならば扶養料は支払うが離婚に応じなければ支払わない旨を主張し、同調停は成立するに至らなかつた。

そこで本件記録および上記当庁昭和三六年(家イ)第自四三六至四三九号扶養調停事件記録並びに当庁家庭裁判所調査官の調査の結果等を綜合すると、申立人等四名代理人の述べる如く、申立人多美と相手万とは昭和二五年六月九日正式に婚姻し、その間に長男邦男(昭和二七年八月八日生)長女恵子(昭和二九年一月三一日生)二女紀子(昭和三〇年一一月三日生)をもうけたが、その後相手方は申立人等四名と別居し、しかも同人等の生活を顧みず、生活費の支給を怠つている事実が認められる。従つて相手方は申立人等四名に対し扶養料の支給をなすべき義務があるというべきである。

次に申立人等四名の毎月の生活費は、どの程度をもつて妥当とするかにつき按ずるに、当庁家庭裁判所調査官の調査の結果によると、相手方は横浜市中区日本大通り三三番地アメリカ銀行横浜支店に勤務し、昭和三六年一二月以降基本給七二、五〇〇円手当六、五〇〇円計七、九〇〇円を支給され、更に昭和三六年八月、九月、十月、一二月翌昭和三七年一月の各月の俸給月額は各七七、五一八円、七七、九一八円、八一、八一八円、八三、二一八円、八三、二一八円(以上何れも現物給与を含む)であるから、所得税、住民税、失業保険掛金、厚生年金掛金を控除しても毎月平均少くとも七〇、〇〇〇円程度の収入があるものと認められ、一方昭和三五年六月、一二月、翌昭和三六年六月、一二月に各支給された賞与は一四八、〇五〇円、一六三、七五〇円、一七一、二五〇円、一八一、二五〇円であり平均して一期に一六六、〇七五円支給されているのに対し、申立人多美は現在定職を得られず専ら相手方の父大倉金作の援助により三人の子女を扶養しているのであるから、労働科学研究所編「綜合消費単位表」により各人の消費単位を申立人多美八〇、同邦男六〇、同恵子五五、同紀子五五、相手方一三〇とし、相手方の俸給月額たる上記七〇、〇〇〇円から同人の毎月の交際費等に支出すべき必要費として、俸給月額の一五%を考慮して控除した残額五九、五〇〇円を上記消費単位で除して申立人等四名の生活費を算出すると三九、一四四円となるから、相手方は申立人等四名の生活費として毎月三九、一四四円を支結することを相当と認めるのであるが、申立人多美は本申立において毎月三〇、〇〇〇円の支給により生活を維持しうる旨述べているから、右申立の限度において、相手方は申立人等四名の扶養料を支払うべく、しかして右三〇、〇〇〇円を上記申立人等四名の消費単位で按分すると、申立人多美は九、六〇〇円、同邦男は七、二〇〇円、同恵子、同紀子は各六、六〇〇円となるから、相手方は上記金額を毎月各申立人に対し扶養料として支払うべきものとすることを相当と認める。更に上記扶養料支払の始期については申立人兼、申立人邦男、同恵子、同紀子法定代理人多美は過去の扶養料については大倉金作から援助されており、別段借金として督促されているものでないから昭和三七年七月から支払つて貰えば可なる旨述べているから、相手方は同月から支払うべきところ、既に昭和三七年七月は経過しているから同月分は直ちに支払うべく、爾後の月分については、相手方が俸給生活者であることを考慮し毎月末日限り、その月分を支払うことと定めるを相当とし、更に上記扶養料支払の終期は申立人多美については、同人が相手方と再び生計を一にして同居するかまたは離婚する月までとすることを相当とすべく、また申立人邦男、同恵子、同紀子については、右各申立人が相手方と再び生計を一にして同居するか、または右各申立人が各成年に達する月までの間右各申立人に支払うべきこととすることを相当とする。

よつて手続費用については各自の負担と定めたうえ主文のとおり審判する。

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